ローライ35SEレポート

populaire2004-11-01


 マン=レイ曰く、「芸術=半芸術であり、それはものを食べたり飲んだりするように芸術を楽しむものであ」る、と。写真というジャンルにおけるコンパクトカメラの進化・波及は、氏の言葉を正に体現することになりました。現在デジタル化しなお隆盛を極めるコンパクトカメラ、その歴史の開祖がローライ35です。ローライ35シリーズの初代にあたる「ローライ35」は1966年にドイツで発表され、当時の35mmカメラとして類を見ない小ささで世界を驚愕させました。

 ここでは、このカメラの大きな特徴であり使用上の難関である「目測式ピント合わせ」を中心にそこはかとなく紹介しようと思います。

 何とかの法則によって、カメラを持っていないときに限ってよさそうな場面に出くわすものです。よって私はできる限りカメラを持ち歩きたいのですが、一眼レフ、レンジファインダーでは毎日持ち歩くにはかさばるので、必然的にコンパクトカメラを持ち歩くことになります。最初はオートフォーカスのコンパクトカメラを使っていました。しかし、スナップをするとき、AFロックという「ひと手間」がどうにももどかしい。そこに現れた救世主が目測式のこのカメラだったのです。

 目測。目で距離を測る。AF全盛の世においては不便な気がするものの、ファインダーを覗く前に距離を決められるという利点は、速写性において何ものにも替えられないものです。現在オートフォーカスは凄いスピードになっていますが、常に測距点に被写体があるわけでもなく、またフォーカスをどんなに早くしても結局ゼロにはできません。結局、あらかじめ決めておいた距離で撮影するのが最もスナップに向いているように思います。

 このようなマニュアルとオートの境界線をどこに引くのがいいのか、という問題はどの世界にもあるもので、私はちょっと前に流行った(今もある)PDAPalmを思い出します。PDAにとって文字入力の識字率は使い勝手の上で非常に大切ですが、日本語の文字は複雑な形であることから、国産のザウルスは日本語をそのまま入力する方法をとっていました。その結果識字率が低く、技術開発によって何とか識字率を上げようと躍起になっていました。それに対してPalmは、アルファベットを簡略化した文字入力法(覚えるため多少の練習が必要)によってほぼ100%の識字率を達成していたのです。機械の性能を上げて問題に対処するのも一つの方法ではありますが、人間にある程度の作業・修練を要求した上で最も効率的に為すべきことを達成するというアプローチもクレバーな感じでいいなあ、と思います。

 さて、目測の長所と短所を整理してみましょう。

   長所。
 1、ファインダーを覗いてからすぐシャッターが切れる。
 2、AFが勝手にピントを外すことはない。
 3、世界中のいろんなカメラが選択肢に入ってくる。

   短所。
 1、正確に測れるのか。
 2、練習がめんどくさい。

   短所への反論。
 1、被写界深度で無問題。
 2、使い手がMなら無問題。

 Mかどうかはさておき、私にとって目測は長所があまりにも大きく、また正確性についても先人の教えを信じ、私は目測に挑戦することにしたのです(方法はリンク参照)。フィルムを10本くらい使ったあたりで、スナップにおいて目測がいかに優れた撮影方法かが分かりました。

 それまでローライ35は距離計がないことで私はそれまであまり興味がありませんでしたから、実際、目測という技術が、私のカメラ選択の幅を広げたことになります。

 実際に手にとってみると、まず特筆すべきはデザインです。私は、あらゆるカメラと比較しても、気品において長じたデザインではないかと思います。また、分厚い金属製なので、最近のデジカメあたりとは物としての質が段違いに良いです。ドイツ名門の工業製品なだけあり、精密感も素晴らしいものです。シャッタースピードダイヤルを回せば、中の歯車などに連動しているのが指先から伝わってきます。全てボタン操作・電子ダイヤルの現代カメラにはない魅力と言えるでしょう。

 機能面ではどうでしょうか。絞りとシャッタースピードと距離を自分がカメラに伝えることしかできません。まず自分の目だけで被写体を見て構図やアングルを考え、その後露出・距離を合わせて1秒で撮る。スナップにおいて、私はカメラにこれ以上望む機能はありません。40mmという画角も凄く使いやすいです。

 ひとつ使いにくいのは、露出計表示がファインダー内にあるので露出計を事前に見ることができないところでしょうか。初代ローライ35やローライ35Sなどは普通にトップカバーに露出計の針が見えるのに・・・。まあ、私のは露出計が壊れてるのでどのみち関係ないのですが・・・(基本的にカン、迷ったら外部露出計で)。

 デザイン、質感、自分で全てを決めて撮影する感覚。一度慣れると手放せない、魔性のカメラがローライ35です。

■追記
 残念ながら、ローライ社は現在瀕死の状態で、オリジナルのカメラがほとんど出せていない状況です。最近、ローライフレックスミニデジというデジタルカメラが出ましたが、洒落では済まない低画質です。本家のローライのサイトには全く記述がないのを見る限り、輸入業者の口車に乗せられただけだとは思いますが・・・。できることなら、ローライにはフォクトレンダーのような質実剛健なブランドを目指してもらいたいと思います。

■スペック
発売年 1979年
レンズ Sonner 40mm/F2.8
シャッター B,1-1/500、露出計あり
フォーカス 目測式
ファインダー 逆ガリレオ式ファインダー(0.75倍)
サイズ 99*68*42(mm)、355g

すっごい久しぶりの更新です。もはや日記ではない・・・(--;)。