メイプルソープ!


 写真家のロバート・メイプルソープ(→略歴(What's designより))の写真集が猥褻であるとして税関に止められた事件の最高裁判決が出ました(→大要はこちら(IT Media)で、全文はこちら(公式・pdf)で)。

 まず、氏の撮る写真がどんな写真なのかをおさらいしておきましょう。→こちら(メイプルソープ財団)で。

 1人反対意見が出たので、4対1ですね。ざっと読んでみて私が注目したのは、多数意見において「編集の芸術的観点」「社会的評価」が猥褻性判断(を減じる芸術性判断)の考慮要素に挙げられているところでしょうか。(新聞報道などで言われている「芸術性が猥褻性を減じるか」という点については、私は、当たり前に減じると思います。芸術性がプライバシーや名誉を侵害する理由にはならないのとは対照的*1です。)

 この点については、堀籠裁判官の反対意見がきっちりとツッコミを入れていて、要するに、先例として拘束力のある最高裁大法廷判決(「チャタレイ夫人の恋人」事件)の基準に従わないのは駄目だよ、と言っています。ここで問題となる基準というのは、「猥褻性の存否は純客観的に、つまり作品自体からして判断されなければならず、作者の主観的意図によって影響されるべきものではない」というものです。堀籠裁判官は、先例に従うならば社会的評価や作者の主観的意図は猥褻性判断において考慮すべきでない、と言っているわけです。

 ただ、この点について思うのは、①社会的評価は作品自体を判断する際には有る程度考慮されてもやむを得ないものですし、②多数意見も決して作者の主観的意図を考慮しているわけではないように読めます(=編集の芸術的観点というものは、作者の主観的意図として捉えることもできますが、寧ろ、客観的に判断することのできる観点といえるように思います)。

 というわけで、少なくともこの点については多数意見の判断が妥当なように個人的には思います。他の点で先例との矛盾がないわけではないような気もしますが、立ち入った話になりそうなので(笑)。

 もう一つ判決に触れるなら、猥褻規制の理由が「性的秩序を守る」ことにあるのは本判決でも維持されているというところでしょうか(私には「性的秩序」の意味するところがよく分かりません・・・自由権以外に保護するものを観念できるでしょうか?)。個人的には、何故猥褻物が規制されるべきなのか、この問題についてもう少し踏み込んだ判断が見てみたかったです。私は、猥褻規制の理由は「見たくない人たちの保護」「青少年の保護」しかない(そして、その範囲においてのみ規制すれば十分であり、税関で止めたり発売禁止にしたりする必要はない)ように思いますが、どうでしょうか。

 最後に、この原告は裁判に持ち込むためにわざわざ税関で写真集を出して没収させたそうなんですが、付随的違憲審査制との関係で問題はないんでしょうかね?

 いずれにしても、メイプルソープの作品が一般にも有名になりそうなのはいいことです。今回問題になった写真集も国内で937部しか売れていないことが判明しましたので(しかもこの部数は判決文において明記されたorz)、皆さん是非大きめの書店でお手にとってみてはいかがでしょう。webで見るより圧倒的に奇麗ですよ。比較的分かりやすい部類に属する写真なので、写真の力を感じることができると思います。

(私信)数日中に、写真に関して大きなニュース(思いっきり私的な話題ですが)を当ブログにてお届けできるかと思います。乞うご期待!

*1:ちなみに、柳美里は、芸術性があればプライバシーを侵害してもいい(大要)という立場で、理解に苦しみます。