フジフイルムは自身の宣言を反故にするのか


 モノクロフィルムの世界では、100フィート(30.5m)で売られている、いわゆる「長巻(長尺)フィルム」というものがある。これは、長いフィルムを自分でケースに詰めて利用するシステムで、コスト削減の面で大変な効果がある(36枚撮りフィルムと比べて約半値で済む)。モノクロの世界では、現像からプリントまで自家で行うことが多いから、このシステム(バルクローディングという)を利用する人が多い。現にぼくも利用している。

 このたび、フジフイルムがその100フィート巻きのフィルムの生産を中止することを決定した。ぼくは、この生産中止は重大な背信行為だと思う。

 というのも、フジフイルムは去年の1月16日、「弊社の写真事業への取り組みについて」という文書において、「写真文化を守り育てることが弊社の使命である」と宣言しているのだ*1。この宣言がフィルムを使用している者によってどれほど心強かったか。この宣言がどれほど写真業界の各所にインパクトを与えたか*2

 それなのに、長巻フィルムの生産を中止するという。長巻フィルムをする人の大半はモノクロの利用者で、写真学校の生徒やヘビーユーザーは昔から長巻を使ってきた。かの土門拳も、森山大道も、その著作で長巻を使うという記述がみられる。長巻フィルムはモノクロフィルムの世界においては立派な「写真文化」だ。

 だから、「写真文化を守り育てることが弊社の使命である」という宣言は、今回の生産中止によって完全に反故にされたといえるだろう。

 去年のよろこびはぬかよろこびだったということに、いま大いなる失望を感じている。確かに長巻を使う人は多くはないだろう。しかし、だったら当初から単に縮小するとだけ言っていればいいのに、格好をつけて下手に持ち上げておいて落とすのだからタチが悪い。この件でぼくのフジフイルム(少なくともイメージング系の部門)への信頼はゼロになったと言ってよい。年始からこのような不景気な話題でげんなりするが、それでも書かずにはいられないほどに憤りは強い。

*1:このことについては当サイトでも取り上げている。

*2:ウェブ上でも各所で引用されたし、業界各誌でも異例の引用がなされた