今年の第九はどれを聴こう


 第九の季節になった。

 ぼくも、今日ようやく、第九を聴こうという気分―つまり今年を総括しようという気分―になった。そこで選んだのが、ケーゲル指揮・ドレスデンフィルハーモニーの演奏(録音は82〜3年。)。

 
ベートーヴェン: 交響曲第9番

ベートーヴェン: 交響曲第9番



 この録音を選んだ理由・・・それは、今年の厳しさを振り返ったとき、この旧東独で過ごした孤高の指揮者がぴったりくるように思えたからだ。

 聴き始めてすぐ、予想に全く反した世界が広がっていく。

 まず、テンポがスローだ。そして、一音一音全てに例外なく陰影が感じられ、魂が込められている。例えるなら、花火大会であがる花火を遠くから見ているような、または、一歩一歩足元を丁寧に踏みしめながら歩いていくような、そんな演奏だ。

 聴く前は緊張を高めていたが、次第に、演奏の慈愛に包まれる感覚がオーバーラップしていく。これは・・・名演だ。全体的な完成度はフルトヴェングラーイッセルシュテットの演奏には及ばないかもしれないが、この演奏の持つ情感は何物にも代えがたい。

 4楽章に入ってもその慈しみは途切れず、合唱部分も本当にスローテンポだが、全く飽きさせることがない。この絶妙なバランスは、その裏に厳しさがなければ実現できるものではないと想像できる。その証拠に、合唱の裏のヴァイオリンなど、細かいところまで実にしっかり音が鳴っている。ぼくの脊髄は終始しびれっぱなしであった。

 この演奏を今年の終わりに聴けたのは、全くの偶然ではないように思える。まさに、今のぼくにぴったりくる―ただし当初の予想とは若干異なるが―第九だ。評価は当然★5つ。録音も良好。

 さて、いいワイン*1も買ったし、これで今年やることは大体やったかな。みなさま、よいお年を!

 

*1:ジャンテ・パンシオのジュヴレ・シャンベルタン!こんなワインはなかなか飲まない・・・