土門拳の格闘(著:岡井耀毅)

土門拳の格闘

土門拳の格闘


 月刊「フォトコンテスト」に連載されていた全24回の記事をまとめたもの。生い立ちから没するまでを描いた伝記というよりは、土門の内面に迫ろうとするものになっている。

 土門拳は、「ヒロシマ」「筑豊のこどもたち」などに代表されるジャーナリスティックな一面と、「古寺巡礼」に代表される日本の伝統美を追及する一面をもつ。これらの性質は一見相反するようにもみえるけれども、決してそうではない・・・このことを解き明かそうとするのが本書である。

 形式面については、終始引用を多用しているのが目をひく。引用といっても別に手を抜いているわけではなく、その引用に過不足は無いし、引用箇所も適切。文筆家としても評価のあった土門の魅力を浮き彫りにすることに成功している。特に、写真誌に掲載された土門自身の記事や、月例*1における読者との往復書簡の引用は膨大な量で、土門の文章の特徴である「熱情」を相当量感じることができる。土門関連の本は結構読んでいるつもりだったが、初見のものも多く、かなり楽しめた。

 特に、土門拳木村伊兵衛の対談は相当面白い。両者は一般にライバルとされ(実際そうだった)ているが、意外なほどに共通点があり、お互いを尊重していることすらみてとれる。そして、この点につき著者は次のようにいう。

 「(土門が)終始一貫して強調しているのは、写真におけるリアリズムというものがヒューマニズムであり、明確な方法論であるという点だ。また、『カメラの対象としてのモチーフに対する一個の写真家としての撮る態度』をリアリズムの根本命題とすることにも揺らぎはない。つまり、あくまでも客観性を重視する態度であり、その点では木村伊兵衛となんら異なるところはない」
 この文は、土門と木村の共通項を語るにとどまらない。現代から振り返っていささか混乱めいているようにみえる「リアリズム」とは何だったのか、ということについても射程をもつものになっている。さらに筆者は渡辺勉の言葉を引用し、リアリズムについて切り込んでいく。

 「写された写真の強み(題材主義)や表現技術の新鮮さ(カメラの持つ機能的レアリティに依存する機械主義、技術主義)だけになり、対象をどう認識し、そこから何を引き出すべきかというかんじんな主体性を欠いたリアリズムであったために、ついにゆきづまらざるを得なかったのだ」(サンケイカメラ昭和33年9月号)
 土門氏の著作を読む上で、参考になる一言だと思う。

 総括するなら・・・自信をもっておすすめします。土門拳に迫れるという意味では相当なもの。ただ、写真が少なめなのは残念かな。


*1:誌上写真コンテスト