第九/ケーゲル指揮&ドレスデン・フィルハーモニー


Beethoven: Symphonies 1-9

Beethoven: Symphonies 1-9

 ケーゲル&ドレスデンフィルハーモニーによる交響曲全集のうちの1枚です。

 全体に渋い。特にテノールのソロや合唱は個性的な渋さがあり、これだけでも聞く価値は十分にあると思います。それでいて、1音1音に込められた「気合い」を感じます。1985年の録音なので、音質も良好。演奏・録音共に高い完成度で、この演奏者の交響曲全集(5枚組)が2000円ちょっとで買えてしまうというのは若干不当な値付けとすら言っていいでしょう。

 白眉は2楽章。2楽章の揃いっぷりはイッセルシュテットウィーン・フィルに引けを取りません。気合いも入りまくってます。3楽章はちょっと流麗さに欠けるところがあるかもしれませんが、十分堪能することができるものです。

 4楽章はかなり個性的な「第九」に分類されると思います。基本的に骨太でありながら、大合唱のところ(543小節目)で急激にテンポを落とすという荒業をやっています。これは凄い。一瞬何が起きたか分かりませんでした。「ああ、遅いんだ・・・」と理解するのに数秒かかるといった按配です。確かに前後部分とのバランスは悪いですが、そこだけ聞くと十分な説得力を感じます。極めて重く、荘厳な音。まったく曲想は違いますが、ブラームス1番の冒頭のような感じを受けました。

 このような遅い合唱は、一般的な、「開放された」意味を含んだいわゆる普通の「歓喜」とは違ったものを私に感じさせます。1980年代後半の東独が、歓喜などとは遠いものだったこととの相関性を疑うのは、穿ちすぎでしょうか。いろいろと深い演奏です。

 <評価:★★★★・・・全体に完成度は高い>