ショス5/ロストロポーヴィチ&ロンドンシンフォニー(2004年ライブ録音)


 ロストロポーヴィチ3度目のショスタコーヴィチ5番は、ロンドンシンフォニー(LSO)自主製作シリーズの一枚です。この自主製作シリーズは熱演揃いで録音も良いので、ついつい買ってしまいます。このシリーズを聴くまでは個人的にLSOへの評価は芳しくなかったのですが、この一連のCDで一変することになりました。

 さてこの演奏ですが、手元にある82年の録音(ワシントン・ナショナル交響楽団)と基本路線は同じです。音楽が自由自在に前後し拡大縮小する嵐のような演奏は、22年経ったこのCDでも健在です。82年のものは、熱いながらもともすれば危うさを感じさせたのに対し、今回の録音はオーケストラの力が一枚上手であり、よりロストロポーヴィチの真意を感じることができるものだと言えます(特に82年はホルンがやばかった)。そしてLSOと指揮者との一体感は、両者の関係が良好なことを想像させます。

 1楽章。ホルン吹きの視点としては、序盤を過ぎた頃の超低域メロディが注目されますが、これが素晴らしい。タワレコの視聴で聴いて購入を決めたのですが、このために買ったといっても過言ではありません。超鳴ってます。ここが鳴らないとショス5ではない、という私にとっては、この部分の演奏はかなり理想に近いものです。ちょっと遅れる箇所がありますが、許してやってください(ここは本当に難しい)。2楽章冒頭のチェロのメロディは各音長目です。私は短いのが好みなのですが、いかがでしょうか。3楽章はオケと指揮者の一体感が特に優れています。前にも触れましたが、ショスタコーヴィチの作曲当時の状況は悲惨なものであり、親交があったロストロポーヴィチは故国の先輩であるショスタコーヴィチに敬愛と共感を覚えていたといわれています*1。そして、そういった敬愛や共感は、この静かな3楽章に最も現れているような気がします。「ついでに聴く」という現在の音楽のあり方とは対極にある音楽のあり方に思われます。4楽章は普通のテンポから始まり、だんだんとスピードを上げていくオーソドックスなスタイルですが、各所がっちりしているのが特に安定感を感じさせる原因だと思います。また、緩除部に入る直前の盛り上がりは各楽器の絶叫とリタルダンドが相俟って、聴き応え十分です。コーダ(終結部)は適度なスローペースと全楽器の気合いに満ちた大音響。トランペットが変態的なボリュームで吹き散らすので好みが分かれるところではありますが、決してきたないわけではありません。私は結構好きです。

 いやしかしそれにしても、全体を貫くダイナミズムはとても77歳の音楽とは思えません。ショス5のマイ・ランクにおいてかなり上位に位置するCDです。さあ、ロストロの歌を聴こう。

*1:ロストロポーヴィチは1974年、西側に亡命した際、ショスタコーヴィチのオペラ「ムツェンスク郡のマクベス婦人」(ソビエトに大批判された、例のオペラ)を録音するという約束を果たしています。