ペンタコンF購入

populaire2005-01-03


 世界最初の一眼レフである「Contax S(1949)」の最後の直系、PentaconFです。国営ツァイス・イコン社(東ドイツ)製。2004年の自分へのご褒美として購入。自分へのご褒美・・・それは物欲を煽る魅惑の言葉。しかしこの言葉、自分で言うのは良くても、雑誌とかに書かれると腹立たしいですねぇ。

■名前と沿革■
 ・・・ペンタコン。一人、試しに呟いてみる。ちょっと間抜けな発音。次に、ひらがなで書いてみる。・・・ぺんたこん。うーん、何とも柔和。どちらにしてもこの名前、機械としては頼りないものに感じられます。

 しかし、しかし。このペンタコン、1846年からの歴史を誇るカール・ツァイスの流れを汲む、由緒正しいカメラなのです。1846年といえば、まだブルックナーは世に出ていない青年(22歳!)、チャイコフスキーに至っては6歳のがきんちょ。交響曲としては、シューマンの2番が完成した年です。ということは、ツァイス・イコンが世界初の一眼レフを発売した当時(1949年)、既にツァイスは1世紀の歴史を重ねていたことになります。正に、光学において神がかった存在だったのでしょう。レンズの光をそのままファインダーに投影できるという長所を持ち、今なおカメラ業界の重鎮である「一眼レフ」という方式を世界で最初に実用化できたのにも、納得です。

(ただ、一眼レフ方式を開発したまでは良かったのですが、東西ドイツ分裂の混乱の最中でツァイスは没落していきます。東ドイツ・国営ツァイス・イコン社はペンタコン人民公社編入され、西ドイツ・ツァイス・イコン社(カール・ツァイス財団のカメラ生産部門)は1971年にカメラ生産から撤退。カール・ツァイスという財団は存続したものの、商標の安売り(*例)を余儀なくされ、その神威は現代においては全く無力化してしまっています・・・)

■機能■
 簡単に歴史を振り返ったところで、このペンタコンFに話を戻しましょう。一眼レフの始祖ということから、どんなに現代の一眼レフと違うのかと期待(?)してしまいますが、意外と普通に使えます。異なる点を挙げるとすれば、

1.AF・露出計なし
2.ミラーが自動で戻らない(クイックリターン機構がない)ため、シャッターを切るとファインダーは真っ暗に。ファインダーは巻き上げで見えるようになります。私は連射とかは全くしないので問題になりません。
3.ファインダー周辺部が暗い。ピントは意外と合わせられます(中央部のみ)。中央部のピント検出能力は、悪評高いEOSファインダーよりちょっと上、くらいでしょうか。あと、ファインダー視野率がかなり低い。間違い無く90%以下でしょう。80後半すらないかも・・・。ファインダーより一回り広く写ります。
4.スクリュー式のレンズを使うため、レンズ交換に若干時間がかかる。
5.年式的に、高速シャッターは精度が出ない。1/1000は1/500くらいです。アニマル浜口K−1に出してはいけません(?)。

 というように、このくらいしか異なる点はありません。普通の用途においては、十分現役を張れるものだと思います。(視野率の低さはかなり問題ですが、そこはファインダー外を見る想像力でカバーしましょう。想像力、それは愛です。ハイロウズも言ってます。)

 次に、シャッターが若干特殊なので、見ていきましょう。まず、シャッターボタンが変なところについていますが、これが意外に押しやすい。特に縦位置なんかは、通常の位置より押しやすいです(私にとっては)。シャッター音は、クイックリターン機構がないせいか機械式一眼レフとしてはうるさくない方に属すると思います。ただ、スローシャッターでは歯車の回る音が賑やかです。どのスピードでもスローガバナー(遅延機構)の動作時間が一定なので、1/20でも1秒と同じ長さの音がします。また、シャッタースピード切り替えの手順としては、接眼部横の切り替えスイッチで高速と低速を切り替えます。

■長所■
 長所は、やはりそのすっきりした綺麗なデザイン。頭の部分が低くて滑らかな印象を与え、また肩の部分(巻き上げ・巻き戻しノブ)が左右対称なのもポイント高いです。塔のモチーフはドレスデンの工場の塔だそうです(1926年、4大カメラ会社の合併によってツァイス・イコン社が誕生したのですが、その内の一社、ハインリヒ・エルネマン社の塔だそうです)。このモチーフも本機の柔らかい感じとよく合っています。また、シャッタースピードを表示する部分が土星のようなファンキーな形になっています。このあたりは現代の「iPod系」デザイナー(?)にはおよそ為し得ない遊び心ではないでしょうか。

 このようにいいことづくめのデザインですが、ひとつだけ問題ががあります。それは・・・レンズマウント部があまりにすっきりしすぎているので、レンズが脇に出っ張り、不恰好になってしまうことです。

 これはデザインの合うレンズ(根元の細いレンズ)を地道に探していくことになりそうです。なんというわがままなカメラ・・・喜んで付き合ってやろうじゃないか。幸いレンズのマウント(=規格)は世界中に星の数ほどあるM42マウント。似合うレンズを入手次第特集していきたいと思います。

 このカメラがいかに自分へのご褒美とはいえ、本当に目指す地点はまだまだ先。2005年年始、エルネマン・タワーに合格を誓う私であります。


<追伸>「ペンタコン」の由来とドイツ分裂の超簡単な補足
 ペンタコンの名前のルーツは「ペンタプリズムコンタックス」です。「ペンタプリズム」とは、一眼レフカメラがレンズから入った光を45度のミラーと5角形のプリズムで撮影者の目に導く際の5角形プリズムのことです。そして「コンタックス」とは戦前から使われていたツァイス社の有名なカメラの商標です。今は京セラが買い取りましたが・・・。
 では何故カメラの名前がコンタックスからペンタコンに変わったのでしょうか。それは、第二次大戦後、ドイツ分裂と共にツァイス社が分裂した際、両社が「コンタックス」商標をかけて争った結果、東ドイツの国営ツァイス・イコン社が敗訴したため「コンタックス」という名を使えなくなったからです。因みにその後ツァイス・イコン社はそのブランドと共にいったん消滅します。しかしカール・ツァイス財団は2004年、突如「ツァイス・イコン」ブランドの復活を宣言、レンジファインダー・カメラ及び交換レンズを発売することになりました。復活自体は悪いことではありませんが、このままではただの懐古趣味に過ぎません。時代に即した刺激的な製品開発を期待したいところです(って、懐古趣味のお前が言うな--;)。

参考リンク:コンタックス・ペンタコン全モデルまとめサイト/英語(mike's praktica collection)