ショス5/アンチェル&チェコ・フィルハーモニー


 今後しばらくショスタコーヴィチ(露・1906-1975)のネタが増えるかもしれません。というのも、2年ぶりにオケに復帰することになり、メインの曲がショス5だからです。よろしくお付き合いくださいませ。

 さて、ショスタコーヴィチ交響曲は15曲もありますが、この5番は一番分かりやすいということで広く人気のある曲です。初演は1937年11月21日、67年前のちょうど今頃でした。この曲はショスタコーヴィチが当時社会主義体制から批判を受けていたことに対する回答であるということです。解釈を巡って様々な争いがありますが、私個人としては、終楽章ラストはやはり強制された歓喜であるが、その「強制された歓喜」はソ連当局を皮肉る以上のものではない、と考えます。つまりこの曲は、「苦悩から歓喜へ」という当局の阿呆にも分かりやすい図式を用いる、いわば妥協の産物ではある。しかし、その中でもショスタコーヴィチは自己の持てる力を最大限注ぎ、この交響曲を最高の名曲に仕立て上げた、 ということです。よって、終楽章最後の行進はそこまでシニカルに考えて聴く必要は無く、音の響きから伝わってくる感情に身を任せれば、自ずと自然な解釈が生まれてくるのではないでしょうか。何と輝かしい和音の響き!何と重い打楽器の一撃!これほど素晴らしいカタルシスを生むラストもなかなかありません。

 今日の名言:「考えるな、感じるんだ」(ブルース・リー

 cf.このように考察するならば、この曲に「革命」という副題を付けイメージを与えるのは不適当ではないかと思います(この副題は日本だけだし)。

 さて、アンチェルのショス5は若干マイナーではありますが、指揮者の考察がよく伝わってくるという点では良演と言えます。ただ、オケがちょっと弱い感じがします。ところどころ音や音程は外れていますし、4楽章などは明らかに指揮者の意図を体現しきれていないので、潔癖の気のある人は聴かないほうがいいでしょう。4楽章ラストが非常に早いということも、私にとっては大きなマイナスです。しかし、1楽章の繊細な音の運びや4楽章の真面目な音作りは十分楽しめます。「その演奏のいいところを感じるんだ」という、寛大さの先にある音楽の豊かな楽しみもあっていいと考えます。<補足>因みにマイベストはビシュコフ/ベルリン・フィルです。

 カレル・アンチェル(wikipedia)ナチスに家族全員をアウシュビッツで失ったり、実質的ソ連支配下チェコを嫌忌してほっぽらかしたクーベリックの後任としてチェコフィルを再建したり、結局自身も「プラハの春」によってアメリカに亡命する羽目に、という苦労の人です。1枚のCDの裏にも様々なドラマがあるんだなぁと、想像を巡らせます。