伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」/ヤブロンスキー指揮、ロシアフィル


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 さて、これからしばらくは昨日の年表に出てきた作曲家達の演奏を聞いていこうと思います。伊福部氏(ゴジラの作曲者)について興味を持ったのは結構最近で、タワレコのランキングで2位だったのを見て、買ってみました。

 曲は、すごくいいです。特にシンフォニア・タプカーラ(=タプカーラ交響曲)。交響曲を作るということは、音楽の歴史に連綿と連なる「交響曲」という土俵に上がることになり、作曲家の気合いも並みではありません。実際、伊福部氏はいくつかの試行錯誤を経て交響曲の構想を練ったといいます。出来あがったこの交響曲は、アイヌ舞踊の一形式「タプカーラ」をモチーフにした3楽章構成。アイヌ民族音楽を全面的に使ったわけではないようですが、「大地への感謝(=タプカーラ)」を表しています。ともすると、「大地への感謝」「土の匂い」などというとイモっぽい印象を受けますが、この曲を聴くと、その土の匂いが全くイモっぽくなく、寧ろクール。「自然の恵みによって我々は生かされているのだ」などという紋切り型の文句を聞いても、土の匂いなど到底実感できませんが、実際的な体験(人によって様々でしょうが、私にはいくつかあります)を得れば案外すんなり納得いくものです。この音楽も、そのような体験を喚起するに十分なものではないでしょうか。その点において、純粋音楽の持つ力(=音だけによって喚起される人間の感情)を改めて実感させてくれる名曲です。特に3楽章はオスティナート(同じ形の執拗な反復)による、土臭い力強さや熱狂が直接脳に響いてくる感じです。わたくしここ数日、3楽章が頭から離れません。

 しかし、このCDの演奏は残念ながらいま一歩。特に3楽章はフラストレーションが溜まるかもしれません。いまひとつ盛り上がりに欠けます。他に聞いたのは広上淳一指揮・日本フィル(本人監修)や本名徹次指揮・日本フィル(本人の卒祷記念ライブ)ですが、この2者の爆発力は凄まじいものがあります。とはいえ、このCDはNAXOSレーベルなので、1000円。ブックレットの解説も類を見ないほど充実しています。ブックレットのために買ってもいいのではないかとすら思います。CDはおまけ、という方向で・・・(初めて聴く分には十分のクオリティだし)。

 タプカーラ以外にも、SF交響ファンタジーゴジラのテーマ等のメドレー)、リトミカ・オスティナータも入ってます。このCDは邦人作曲家入門として絶好の一枚とも言われますが、全くその通りな気がします。少なくとも私は、これから邦人作曲家を積極的に聴いて行く気になりました。