文芸春秋

■yahooニュース(毎日新聞)
田中真紀子長女報道事件に関する決定が地裁で確定した。事実の概要は上記に詳しい。本決定は全く正当なものだと思う。簡単にまとめると次のようになる。
プライバシー権とは「自己に関する情報をコントロールする権利」である。そしてここでいう情報とは、公に発表されると精神的苦痛を受けることが一般的に予想される情報を差す。但し、例外的に、その情報が1)公共の利害に関するものであり、2)公益を図る目的で公表された場合は、プライバシー権報道の自由との利益考量次第では公表を許される。
今回の件は、全くの私人である長女に関する記事だから、公益性が全く認められないのは当たり前だ。文春側は「将来政治家になる可能性があるから」という理由を裁判所に提出していたようだが、小学生でも是非が分かるような幼稚な理論だ。また、文春は公式見解で次のように述べる。「とくに今回の仮処分決定は、「プライバシーの侵害」という言葉を、その具体的な内容の開示を封じることによって逆に肥大化、独り歩きさせ、もって雑誌ジャーナリズムヘの評価を不当におとしめるものであった。これは異常な事態である」と。プライバシーの具体的内容は判例学説上、先に挙げた「自己に関する情報をコントロールする権利」とすることでほぼ一致している。このような反論は、人の法に関する無知につけ込み、感情的側面から操作しようとしていないか。
また、一般マスコミの反応はどれも「表現の自由に対する不当な圧殺」といった論調だ。表現の自由は、長い時間をかけてジャーナリズムが獲得した既得権とも言い換えられ、その権力は、所有者によって手放されるようなことない。歴史の示すところである。アクトンの「絶対的権力は絶対に腐敗する」という有名な言葉をひくまでもなく、ジャーナリズムは、まさに今、香ばしい腐臭を放ち始めているところなのだろう。

■世界人権宣言第29条2項
 すべて人は、自己の権利及び自由を行使するに当っては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって定められた制限にのみ服する。

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■弁護士佃克彦の事件ファイル
 本件と同じように、プライバシー権が問題になった重要判例石に泳ぐ魚(著:柳美里)」事件を担当した弁護士の手記。事実の概要は以下の通り。柳が、顔に腫瘍のある知人女性を知らないうちに著作物に登場させ、経歴や職業や家族構成なども詳細に書き、しかもその扱いが侮蔑的なものだったことから、その女性が出版差し止めを求めた、というもの。確実に言えるのは、人を踏みつけた上に成立するものは芸術ではないということだ。
 この文章は、難しい問題にも関わらず論理明快、非常に読みやすくできている。おすすめ。こんな文章が書けるようになりたい。

■渦中の社の声明文

■BPO/放送倫理・番組向上機構
 放送業界では、このような自前の組織で自浄作用をアピールしている。しかし、法の精神に照らせば、第三者機関でなければならないだろう。いまだからこそ、徹底した性悪説が必要だ。

■追伸■
 差し止めの是非がプライバシーの問題とは別にあるが、これについては、一定の要件(先述)の下に認められるべきだ。今回の件にひきなおして言えば、差し止めなければ被害を回復することなどできはしないからだ。